こんにちは、柏井歯科矯正歯科の柏井です。
以前のブログで宣言したように、今年は少しでも皆さんの参考になるような症例のお話もしていきます!
どんなお話にしようかと思ってたのですが、先日患者さんにひとこと言って頂いたことを思い出しました。
『こんな治療あるんですね、まわりのみんなに話したらみんなびっくりしてます!』言われてみればそうか、確かに!
と思いました。ブログで写真とか使っていいですか?とお聞きしてOKを頂きました。
医療分野で移植と聞くと、心臓移植や骨髄移植などがドラマなんかではよく取り上げられます。
そんなとき必ずドラマチックに問題となるのが、
①ドナーがいない
②拒絶反応が問題
とかですよね。
こと歯の移植治療に関していえばこの2つの問題が起きることは全くありません。
なぜなら、自分の身体に余っている親知らずなどの余分な歯がドナーとなり、歯が欲しいところに移植されるという、なんとも素敵な地産地消というか、身体に優しい治療なんです。
どういうこと?具体的にどんな治療??
実際の症例をお話させて頂きます。
患者さんは、Mさん54歳女性です。
『右下の奥歯が痛い、歯茎が腫れる』とのことでご来院されました。
検査・診断の結果、右下7の歯は歯根破折を起こしていました(右下の前から7番目の歯が根元から真っ二つに割れてしまっていました)。
レントゲン写真です。
矢印で指している歯が問題の右下7番の歯です。
大きい虫歯などで歯の神経を取る治療をして金属などで被せ物をした歯は知らず知らずの内に脆くなり根元から割れることが多々あります。
微細な亀裂程度であれば修復できるケースもありますが、真っ二つに割れてしまってはさすがに手の施しようがありません。
抜歯するしかないという状況です、抜いた後はどうしたら。。。というところですが、なんともラッキーなことに、この歯の後ろには比較的状態の良い親知らずがちょこんと居座っておられました。8と書いてるのが親知らずです。
右下7は歯根破折で抜かないといけないけど、現状余ってる右下8(親知らず)が割と状態良いので右下7の代わりをさせようという治療方針です。
実際の治療の流れを列挙していきます。
局所麻酔
↓
7番の抜歯、掻爬(炎症性物質の除去)
↓
8番の抜歯
↓
その8番を、7番を抜いたスペースに移植
↓
咬み合わせ調整、縫合固定
という流れで合計約1時間ほどで終わります。
実際の術後の写真です↓
7番の歯はもうなくなっており、そのスペースに8番が移植され縫合糸で固定されています。
術後1週間後のレントゲン写真です↓
適切なスペースに埋まっており、経過はまずまず良好です。
術後3週間後の実際の写真です↓
歯肉の状態もだいぶ落ち着き、縫合糸も取れ、引き続き安定しています。
この時期ぐらい(術後約3週後)に歯の根っこの治療を行っていく必要があります。
一旦抜いた歯なので、神経の先端が切れて歯の根っこの中は空洞になってしまっています。
そのままにしているとその空洞内に菌が繁殖しかねないため、適切に根っこの治療を行う必要があります。
根っこの治療も問題なく経過し、術後約5週後の実際の写真です↓
仮歯を入れ、実際に上の歯と咬ませるように使い始めてもらっています。
最初はリハビリのような感じです、少しずつここで咬む感触を取り戻していってもらうような感じですね。
あまり硬いものは最初は避けて頂きながら、咬み合わせも調整しながら、経過を観ていきます。
Mさんも「最初は違和感があったけどだんだん普通になって慣れてきた」と言われており、今のところ経過は順調かと考えます。
何やら良いことだらけのようなお話になってしまいましたが、もちろんそうでないこともあります。
そもそも移植の適応であるかどうかというところで適応はかなり限られます、歯のサイズであったり位置であったり。
また、この移植治療自体の成功率・生着率もおよそ8割ぐらいで、残り2割は移植しても生着しないケースがあります。
その成功率には、移植歯に健康な歯根膜(歯の靭帯)がどれくらい残っているか、また移植先の炎症組織の残存程度など、いろいろな要因が関係してきますので、闇雲に行う治療ではもちろんありません。
きちんと、診査・診断を行い、治療計画を立てて、メリット・デメリットを天秤にかけたうえで行う治療です。
抜かないといけない歯がある方や、インプラントを検討されている方などで悩まれておられる方も多いかと思います。
こんな治療もありますよ(保険適用です)というお話でした。
京都北山・北大路の歯医者・矯正歯科
柏井歯科矯正歯科
院長 柏井 桂